僕はバブル以前、リミッターのない鷹揚な笑いを許してくれる体制がテレビ局側にもあった時代に、テレビディレクターとして初めて責任を持たされてとんねるずのコントを作っていた(『コラーッ!とんねるず』85~89年)。1000本近いコントをノックを打つように作り続けて、その頃に得た笑いの質みたいなものが一生の宝物になっている。それをドラマの中で形にできないか? というのがずっと基本にあって、そこがキャラクターメイキングに反映されています。
あの頃のはっちゃけた感じというのは、私を含めた同時代のクリエイターには脈々と流れていて、一緒に作っていた仲間でもある秋元康さんの作詞の中にもある。彼らの仕事の中に、その感覚が今でも生きている片鱗を見ると、「よし、まだ死ねないぞ」と思いますね。
――一方で、堤監督の映画作品でもっともヒットしたのは『20世紀少年』(08~09年)ですよね。あれは人気マンガが原作で、有名な役者がたくさん出るオールキャストの大作であって、いわゆる堤監督本来のスタイルやテイストが好きなファンとは違う層に届いたと思います。『20世紀少年』前後で、自身の作品の客層が変わった感じはありますか?
堤 そのあたりは特に変わらないですね。でも、どこに球を投げるかというのは常に意識しています。例えば、『20世紀少年』は明らかに原作ファンに球を投げるしかなかった。特に第1部では「原作と同じ構図を探してみてください」というくらい、原作マンガに沿った作り方をしていた。あるいは、『BECK』(10年)という作品も同じように撮った。ただ、最近はネットを武器にした好事家の声が大きいのもあって、この2つの作品では賛成票も多ければ反対票も多いというのを経験しましたね。特に『BECK』は、ラストに向けた過激な表現が原作ファンから全面否定されたりもした。ファンの愛し方にもいろいろあるわけで、その声は意識もするし「次に作る時はこうしよう」という意欲にもなる。賛否両論の否の声には相当耳を傾けるべきで、それはエンターテインメントのプロとして当然だと思っています。
――「好事家」ということでいうと、堤監督はそれこそ好事家の多いジャニーズ主演の作品もかなり撮られています。ジャニーズファンからの評価も高いですが、相性がいいんでしょうか?
堤 ジャニーズ作品は毎回タイプが違って、「あのアイドルがこんなことしちゃった」だけではダメだし、ベタベタなアイドルらしさだけでもダメで、正直なところ、作り方は意外と難しい。もちろんジャニーズ作品にも一般性の高いものはいっぱいありますが、基本はお客さんに喜んでいただかないと仕方ないんじゃないか、と僕は思っています。それはある種、いわゆる映画的/演劇的な批評性とは相容れないものもある。『ピカ☆ンチ』という作品では、公開形式が非常にクローズドなこともあり、主演の嵐と、嵐を愛する人が腹の底から笑って楽しめればいいと思って球を投げました。マニアックなコントを撮っていた時代を彷彿とさせて、私の本音に近い、面白い作り方でしたね。
――堤監督の作品は、一貫して作家性をはぐらかしながら撮っているところがあるように思っていたんですが、実は『ピカ☆ンチ』が一番作家性を感じました。
堤 『ピカ☆ンチ』の1作目はお台場の屋形船を沈めるというめちゃくちゃな話でしたけど、やっぱりお台場の海辺に立って屋形船を見ると、「なんで天ぷら食って踊っているんだよ」って頭にくるんですよね(笑)。そういった僕の思いを、嵐の皆さんにそのままやっていただいたところに絶妙な面白さがあるなって。それを受容してくださったジャニーズ事務所の方々は、本当に心が広いな、と。
「確信を持って作った 面白いものは伝わると信じる」
――今年の映画業界は、テレビドラマの映画化が減って東宝の一人勝ちという状況ですが、テレビと映画の関係も変わってきていると思われますか?
堤 変化というよりも、映画という表現だけでなくいろんなジャンルのものが自由に選択できる時代になって、何かひとつの要素にヒットの可能性があるとは相対的に言えなくなっている気がするんです。その中で、クリエイターとしては自分たちが確信を持って作った面白いものは絶対に伝わると信じて疑わない。結果として、『神の舌を持つ男』も視聴率的にはちょっと寂しいかもしれないけれど、映画の数字はまた違うものだと思っています。
――では、映画『RANMARU 神の舌を持つ男』について、失礼な言い方ですけど、テレビシリーズを観てこなかった人にはどのようにアピールすればいいと思いますか?
堤 何も考えずに観て面白いので、お気楽に観てください、と。冒頭から、本当に大笑いできるギャグをちりばめてあるし、ドラマからずっと練り込んできたキャラクターが大爆発している。それだけではなくて、今の日本や世界が持っているある種の問題もうっすらと底に流れていて、自分で言うのも気持ち悪いんですけど、見ごたえのある上質のミステリーになっているエンターテインメント作品なので、老若男女関係なく観てくださいと訴えたいです。
――先ほどおっしゃった通り、ヒットする前提で作っている?
堤 もちろんそうです。『RANMARU』については、皆さんと共犯意識を持ちたいな、というのがありますね。「ほかの人にはわからないんじゃないかな?」っていう、そのお客さんと堤の共犯意識を楽しんでもらえる仕掛けがそこかしこにあるので、それは楽しいんじゃないかな。それこそ80年代のとんねるずのコントにあった共犯意識のような。
――非常に多作な堤監督ですが、今後撮りたい作品はありますか?
堤 やりたい企画はすごくあります。特に自分の賞味期限はあと10年あるかどうかなので、この10年でやらねばと思っている企画は10個以上ありますね。
――それは映画や舞台、テレビドラマにかかわらず?
堤 テレビドラマはスピードが要求されるので、さすがに還暦を過ぎると肉体的にかなりキツイんですね。頑張ってはいるけれど、率先してテレビドラマの演出家と言い切るのは、なかなか無理がある。だったら、主に映画作品でひとつのテーマをきっちり決めて、自分なりの投げたい球を研究して投げたものを、この10年で作りたいと思います。
(インタビュー/速水健朗)
(構成/須賀原みち)
堤幸彦(つつみ・ゆきひこ)
1955年、愛知県生まれ。演出家、映画監督。オフィスクレッシェンド取締役。法政大学中退後、東放学園専門学校に入学。放送業界に入る。ADを経てテレビディレクターとなり、『コラーッ!とんねるず』(日本テレビ)などを手がけたのち、秋元康と「SOLD OUT」を立ち上げ。プロモーションビデオやCM、ミュージッククリップなどを数多く手がける。オムニバス作品『バカヤロー! 私、怒ってます』内「英語がなんだ」で劇場映画デビュー。ドラマ『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系/95年)で一躍有名になり、以降の活躍は知られている通り。
本当はもっと長いタイトルです『RANMARU 神の舌を持つ男』
あらゆる物質を成分分析できる舌を持つ男・朝永蘭丸。傷心の旅の途中で行き倒れたところを、鬼灯村の女医・りんに助けられる。村の温泉で三助として働くことにした蘭丸を追って、知人の古物商・甕棺墓光と宮沢寛治も登場。村は黒水の出水や不審な鬼火、そして「子殺しの温泉」という伝説が表沙汰になり、問題が山積みだった。そしてさらにある一角で、村人の死体が発見される。この村の秘密とは一体何か? 蘭丸の舌が解き明かす。
ほぼ年2本ペースで積み重ねた 堤幸彦フィルモグラフィー(映画限定)
88年『バカヤロー! 私、怒ってます -英語がなんだ-』
91年『![ai-ou]』 『HOMELESS』
93年『中指姫』
95年『さよならニッポン! ~南の島の独立宣言~』
97年『金田一少年の事件簿 -上海魚人伝説-』
98年『新生 トイレの花子さん』
00年『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』
01年『溺れる魚』『CHINESE DINNER』
02年『ピカ☆ンチ-LIFE IS HARD だけどHAPPY-』『TRICK劇場版』『Jam Films/HIJIKI』
03年『恋愛寫眞』『2LDK』
04年『ピカ☆☆ンチ-LIFE IS HARDだから HAPPY-』
05年『EGG』
06年『SIREN』『明日の記憶』『TRICK劇場版2』
07年『大帝の剣』『包帯クラブ』『自虐の詩』
08年『銀幕版スシ王子! ~ニューヨークへ行く~』『20世紀少年 ―第1章― 終わりの始まり』『まぼろしの邪馬台国』
09年『20世紀少年 ―第2章― 最後の希望』『20世紀少年 ―最終章― ぼくらの旗』
10年『劇場版TRICK霊能力者バトルロイヤル』『BECK』
11年『はやぶさ/HAYABUSA』
12年『堂本剛 平安神宮公演2011 限定特別上映 平安結祈 heianyuki』『劇場版 SPEC~天~』『MY HOUSE』『エイトレンジャー』
13年『くちづけ』『劇場版 SPEC~結(クローズ)~漸(ゼン)ノ篇』『同 爻(コウ)ノ篇』
14年『TRICK劇場版 ラストステージ』『エイトレンジャー2』
15年『悼む人』『イニシエーション・ラブ』『天空の蜂』
16年『真田十勇士』
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参照サイト:日刊サイゾー
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あの頃のはっちゃけた感じというのは、私を含めた同時代のクリエイターには脈々と流れていて、一緒に作っていた仲間でもある秋元康さんの作詞の中にもある。彼らの仕事の中に、その感覚が今でも生きている片鱗を見ると、「よし、まだ死ねないぞ」と思いますね。
――一方で、堤監督の映画作品でもっともヒットしたのは『20世紀少年』(08~09年)ですよね。あれは人気マンガが原作で、有名な役者がたくさん出るオールキャストの大作であって、いわゆる堤監督本来のスタイルやテイストが好きなファンとは違う層に届いたと思います。『20世紀少年』前後で、自身の作品の客層が変わった感じはありますか?
堤 そのあたりは特に変わらないですね。でも、どこに球を投げるかというのは常に意識しています。例えば、『20世紀少年』は明らかに原作ファンに球を投げるしかなかった。特に第1部では「原作と同じ構図を探してみてください」というくらい、原作マンガに沿った作り方をしていた。あるいは、『BECK』(10年)という作品も同じように撮った。ただ、最近はネットを武器にした好事家の声が大きいのもあって、この2つの作品では賛成票も多ければ反対票も多いというのを経験しましたね。特に『BECK』は、ラストに向けた過激な表現が原作ファンから全面否定されたりもした。ファンの愛し方にもいろいろあるわけで、その声は意識もするし「次に作る時はこうしよう」という意欲にもなる。賛否両論の否の声には相当耳を傾けるべきで、それはエンターテインメントのプロとして当然だと思っています。
――「好事家」ということでいうと、堤監督はそれこそ好事家の多いジャニーズ主演の作品もかなり撮られています。ジャニーズファンからの評価も高いですが、相性がいいんでしょうか?
堤 ジャニーズ作品は毎回タイプが違って、「あのアイドルがこんなことしちゃった」だけではダメだし、ベタベタなアイドルらしさだけでもダメで、正直なところ、作り方は意外と難しい。もちろんジャニーズ作品にも一般性の高いものはいっぱいありますが、基本はお客さんに喜んでいただかないと仕方ないんじゃないか、と僕は思っています。それはある種、いわゆる映画的/演劇的な批評性とは相容れないものもある。『ピカ☆ンチ』という作品では、公開形式が非常にクローズドなこともあり、主演の嵐と、嵐を愛する人が腹の底から笑って楽しめればいいと思って球を投げました。マニアックなコントを撮っていた時代を彷彿とさせて、私の本音に近い、面白い作り方でしたね。
――堤監督の作品は、一貫して作家性をはぐらかしながら撮っているところがあるように思っていたんですが、実は『ピカ☆ンチ』が一番作家性を感じました。
堤 『ピカ☆ンチ』の1作目はお台場の屋形船を沈めるというめちゃくちゃな話でしたけど、やっぱりお台場の海辺に立って屋形船を見ると、「なんで天ぷら食って踊っているんだよ」って頭にくるんですよね(笑)。そういった僕の思いを、嵐の皆さんにそのままやっていただいたところに絶妙な面白さがあるなって。それを受容してくださったジャニーズ事務所の方々は、本当に心が広いな、と。
「確信を持って作った 面白いものは伝わると信じる」
――今年の映画業界は、テレビドラマの映画化が減って東宝の一人勝ちという状況ですが、テレビと映画の関係も変わってきていると思われますか?
堤 変化というよりも、映画という表現だけでなくいろんなジャンルのものが自由に選択できる時代になって、何かひとつの要素にヒットの可能性があるとは相対的に言えなくなっている気がするんです。その中で、クリエイターとしては自分たちが確信を持って作った面白いものは絶対に伝わると信じて疑わない。結果として、『神の舌を持つ男』も視聴率的にはちょっと寂しいかもしれないけれど、映画の数字はまた違うものだと思っています。
――では、映画『RANMARU 神の舌を持つ男』について、失礼な言い方ですけど、テレビシリーズを観てこなかった人にはどのようにアピールすればいいと思いますか?
堤 何も考えずに観て面白いので、お気楽に観てください、と。冒頭から、本当に大笑いできるギャグをちりばめてあるし、ドラマからずっと練り込んできたキャラクターが大爆発している。それだけではなくて、今の日本や世界が持っているある種の問題もうっすらと底に流れていて、自分で言うのも気持ち悪いんですけど、見ごたえのある上質のミステリーになっているエンターテインメント作品なので、老若男女関係なく観てくださいと訴えたいです。
――先ほどおっしゃった通り、ヒットする前提で作っている?
堤 もちろんそうです。『RANMARU』については、皆さんと共犯意識を持ちたいな、というのがありますね。「ほかの人にはわからないんじゃないかな?」っていう、そのお客さんと堤の共犯意識を楽しんでもらえる仕掛けがそこかしこにあるので、それは楽しいんじゃないかな。それこそ80年代のとんねるずのコントにあった共犯意識のような。
――非常に多作な堤監督ですが、今後撮りたい作品はありますか?
堤 やりたい企画はすごくあります。特に自分の賞味期限はあと10年あるかどうかなので、この10年でやらねばと思っている企画は10個以上ありますね。
――それは映画や舞台、テレビドラマにかかわらず?
堤 テレビドラマはスピードが要求されるので、さすがに還暦を過ぎると肉体的にかなりキツイんですね。頑張ってはいるけれど、率先してテレビドラマの演出家と言い切るのは、なかなか無理がある。だったら、主に映画作品でひとつのテーマをきっちり決めて、自分なりの投げたい球を研究して投げたものを、この10年で作りたいと思います。
(インタビュー/速水健朗)
(構成/須賀原みち)
堤幸彦(つつみ・ゆきひこ)
1955年、愛知県生まれ。演出家、映画監督。オフィスクレッシェンド取締役。法政大学中退後、東放学園専門学校に入学。放送業界に入る。ADを経てテレビディレクターとなり、『コラーッ!とんねるず』(日本テレビ)などを手がけたのち、秋元康と「SOLD OUT」を立ち上げ。プロモーションビデオやCM、ミュージッククリップなどを数多く手がける。オムニバス作品『バカヤロー! 私、怒ってます』内「英語がなんだ」で劇場映画デビュー。ドラマ『金田一少年の事件簿』(日本テレビ系/95年)で一躍有名になり、以降の活躍は知られている通り。
本当はもっと長いタイトルです『RANMARU 神の舌を持つ男』
あらゆる物質を成分分析できる舌を持つ男・朝永蘭丸。傷心の旅の途中で行き倒れたところを、鬼灯村の女医・りんに助けられる。村の温泉で三助として働くことにした蘭丸を追って、知人の古物商・甕棺墓光と宮沢寛治も登場。村は黒水の出水や不審な鬼火、そして「子殺しの温泉」という伝説が表沙汰になり、問題が山積みだった。そしてさらにある一角で、村人の死体が発見される。この村の秘密とは一体何か? 蘭丸の舌が解き明かす。
ほぼ年2本ペースで積み重ねた 堤幸彦フィルモグラフィー(映画限定)
88年『バカヤロー! 私、怒ってます -英語がなんだ-』
91年『![ai-ou]』 『HOMELESS』
93年『中指姫』
95年『さよならニッポン! ~南の島の独立宣言~』
97年『金田一少年の事件簿 -上海魚人伝説-』
98年『新生 トイレの花子さん』
00年『ケイゾク/映画 Beautiful Dreamer』
01年『溺れる魚』『CHINESE DINNER』
02年『ピカ☆ンチ-LIFE IS HARD だけどHAPPY-』『TRICK劇場版』『Jam Films/HIJIKI』
03年『恋愛寫眞』『2LDK』
04年『ピカ☆☆ンチ-LIFE IS HARDだから HAPPY-』
05年『EGG』
06年『SIREN』『明日の記憶』『TRICK劇場版2』
07年『大帝の剣』『包帯クラブ』『自虐の詩』
08年『銀幕版スシ王子! ~ニューヨークへ行く~』『20世紀少年 ―第1章― 終わりの始まり』『まぼろしの邪馬台国』
09年『20世紀少年 ―第2章― 最後の希望』『20世紀少年 ―最終章― ぼくらの旗』
10年『劇場版TRICK霊能力者バトルロイヤル』『BECK』
11年『はやぶさ/HAYABUSA』
12年『堂本剛 平安神宮公演2011 限定特別上映 平安結祈 heianyuki』『劇場版 SPEC~天~』『MY HOUSE』『エイトレンジャー』
13年『くちづけ』『劇場版 SPEC~結(クローズ)~漸(ゼン)ノ篇』『同 爻(コウ)ノ篇』
14年『TRICK劇場版 ラストステージ』『エイトレンジャー2』
15年『悼む人』『イニシエーション・ラブ』『天空の蜂』
16年『真田十勇士』
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参照サイト:日刊サイゾー
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